高卒採用は、大学新卒採用や中途採用とは異なるいくつかの独自ルールがあります。その代表格が「一人一社制」です。制度の背景や、メリット・デメリットなどをしっかり把握して、良い採用活動に繋げていきましょう!

高卒採用独自のルール「一人一社制」とは

一人一社制とはその言葉通り、高校生の就職活動において「一人の求職者(高校生)が応募できる企業は一社まで」と定めたルールです。なぜこのような制度が導入されているのでしょうか。

一人一社制とは

まず原則として理解しておきたいのが、高校生の就職は、「学校が企業に推薦する」形式が基本であることです。高校生本人が自由に就職活動を行うのではありません。

その前提で考えたとき、一人一社制は、大学などの専願制推薦入試とイメージが似ています。企業が高校生の採用活動を行う際に、他社と併願しない「単願」を求める代わりに、学校も一定期間は他社への推薦を行わないというものです。なお、内定が決まった企業には必ず就職するのが慣例です。

高卒採用は7月に募集活動が解禁され、9月に面接や採否の決定などを行います。しかし必ずしも、そこで採用予定人数を満たせるとは限りません。就職先が決まらなかった高校生もいます。これ以降は二次募集となりますが、そこで初めて複数の企業への応募が可能になるのです。

一人一社制の背景

「高校生も企業も、最初から自由に活動できたほうがいいのでは?」と思われるかもしれませんね。

確かにそれも一理あるのですが、高卒採用の前提には「高校生を守る」という考え方があります。

高校生の本分は、言わずもがな学業を中心とした高校生活。多忙な就職活動や過度な競争により、そこに支障が出ないようにという配慮から、一人一社制が敷かれているのです。

ちなみに高卒採用におけるルールを決めているのは、文部科学省・厚生労働省管轄の「行政」、「経済団体関係者」、「学校関係者」。前述の「高校生を守る」という観点でこの三者が毎年の合議を行って詳細を決めていることから「三者間ルール」と呼ばれます。一人一社制も、採用スケジュール(解禁日などの設定)も、三者間ルールの一部なのです。

【企業編】一人一社制のメリット・デメリット

一人一社制には良い面もあれば、悪い面もあります。まずは企業側の立場から見たメリット・デメリットについて考えてみましょう。

【企業側】一人一社制のメリット

内定辞退が少なく、人材を確保しやすい

前述のように、一人一社制によって応募は単願となり、原則として内定を辞退することができません。複数の企業の内定を得た上で選択することができないため、採用を見込んでいた高校生を“取り逃がす”リスクが大きく低減されます。

また、高卒採用においては、ハローワークに対し「明確な採用予定人数」を提示し(「若干名」などのアバウトな設定は不可)、かつ採用状況について定期的に報告する必要があります。ルールに則って安定的かつ確実な採用活動を行う上でも、一人一社制は企業にとってメリットの大きい制度だと言えるでしょう。

採用コストを削減できる

一般的に、一人の人材を確保するための平均費用は、新卒で93.6万円、中途で103.3万円(※1)というデータがあります。仮に採用予定人数が3名ならばその3倍という計算であり、決して軽視できません。一人一社制のもう一つの大きなメリットが、この採用コストの削減です。

採用コストは、担当者の人件費などの「内部コスト」と、求人広告や人材紹介・スカウト媒体への報酬などの「外部コスト」に分けられます。また、どれだけ社員の手間や工数を要するのかという「時間コスト」の考え方もあるでしょう。しかし、一人一社制の高卒採用の場合、基本的にハローワークを介して学校に求人票を提出するのみですので、これらのコストを大幅に削減できます。

(※1)出典:リクルート<就職白書2020>

【企業側】一人一社制のデメリット

タイトな採用スケジュール

一人一社制を含む「三者間ルール」では、採用スケジュールもきっちりと決められています。7月に求人票が公開されて採用活動が解禁され、その後は応募前職場見学などを実施し、9月初旬から実際に応募種類の受付を開始し、9月中には内定を出します(日程は都道府県により若干異なる)。

実質、採用活動の解禁から内定まで3カ月弱という日程です。9月以降は特にハードで、約1カ月の間に応募を受け付け、面接を実施し、内定者を決定し、その通知を出さなければなりません。非常にタイトなスケジュールであり、その点は注意が必要です。また、人生を左右するかもしれない大事な就職先を数カ月の間に決める必要があるという面では、高校生にとってもデメリットだと言えます。

ミスマッチが起こりやすい

一人一社制において、高校生は複数の企業を十分に比較検討したうえで応募することが難しくなります。学校の先生の薦めに従い、提示された複数の企業の中から「良さそうだ」と思う企業を選びます。そういった意味では、強い入社意欲や勤労意欲に基づき、心から納得して「自分で決めた」とは言い切れない部分もあります。

こうした場合に起こるミスマッチ、つまり入社後に「思っていたのと違った」という理由で早期退職してしまう事例は後を絶ちません。新卒後3年以内の離職率は大卒が31.5%であるのに対し、高卒では35.9%と高くなっています(※2)。この差は、主体的に就職先を比較検討できない影響によるものだという指摘は以前からあり、一人一社制の最大のデメリットだと言えるかもしれません。

(※2)出典:厚生労働省<新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)>

【高校生編】一人一社制のメリット・デメリット

【高校生側】一人一社制のメリット

学業に集中しやすい

前述したように高校生の本分は学業ですが、一人一社制はその本分を守るためのもの。三者間ルールでは、企業と高校生が直接連絡を取り合うことを禁止していますが、それも同様の理由です。

大学新卒などの就活の場合、企業研究やエントリー、企業とのやり取りも、すべて自己責任で行わなければなりません。大変な労力と時間を要することですが、一人一社制ならば、企業との基本的な窓口は学校(先生)です。求職者本人は、本番の面接や試験、そのための練習だけで済みます。企業側としても、高校生にとって就活が最優先事項だと思わないようにすることが大切です。

内定を得やすい

企業への単願と、学校の推薦によって成り立っているのが一人一社制です。学校側としては「この企業なら安心だろう」、企業側としては「この学校(先生)が薦めてくれた人材なら大丈夫だろう」という信頼関係に基づいて成立しています。そのため、内定率は非常に高くなるのが特徴。令和4年度の高卒採用における内定率は99.3%(※3)と、ほぼ全員が就職できている状況です。

これが、他の求職者と競い合って就活するサバイバルレースになると、争いが過熱してやはり学業に支障が出ます。高校生が安心して、かつ余裕を持って就活するためにも効率的な制度なのです。

(※3)出典:厚生労働省<令和4年度「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職・就職内定状況」取りまとめ>

【高校生側】一人一社制のデメリット

選択肢が狭くなる

学校の推薦・斡旋が基本となる高卒採用の場合、どうしても就職先候補の選択肢は狭くなります。求職者が自ら自由に企業を探してエントリーする形ではないためです。まず、企業側から学校に「この高校から生徒を雇用したい」と求人票が提出されなければ、接点すら持てません。

そして、進路指導の先生から「この生徒なら、この企業に向いていそうだ(推薦できる)」というある程度の相性や評価も必要でしょう。また、推薦を得るための校内選考は成績順になっていることが多いです。つまり、まずは学校側の“フィルター”を通して就職先を選んでいるとも言えます。 また、高卒採用には企業が特定の高校に絞って求人を出す「指定校求人」と、一般的に広く募集する「公開求人」があります。特にこの「公開求人」は推薦が得られたとしても確実な採用を保証するわけではありません。不採用だった場合は、複数の企業への応募が可能になる二次募集(おおむね10月以降)へと回ることになりますが、その時点で求人数(求人を出している企業)が減っている場合もあります。総じて、就職先候補の選択肢が狭くなってしまうのがデメリットです。

比較検討がしにくい

大学新卒や中途採用であれば、求人情報媒体、合同企業説明会、インターン、OB/OG訪問、各社が独自に開催するイベントなど、さまざまなチャンネルから情報を得ることができます。それらを比較したうえで「ここだ!」と思う企業にエントリーすれば良いのですが、一人一社制の場合はそうもいきません。三者間ルールにより、企業側からの直接的なコンタクトや採用アプローチは制限されているため、夏休みごろに実施される「応募前職場見学」のみが唯一の手掛かりです。

確かに高卒採用の大前提は「高校生を守る」ことです。大人に比べると社会経験や企業理解、判断能力が十分ではないことから、こうしたサポートが重要なのは理解できます。しかし、一人一社制により選択肢が狭くなり、比較検討しにくくなる側面もあるのは事実でしょう。極論すれば、高校生は企業を選り好みできる立場にないとも言えます。

【学校編】一人一社制のメリット・デメリット

高卒採用の大きな特徴は、学校側が強いイニシアチブを握っていることです。一人一社制は、その点においても大きな意味や効果をもたらしています。

【学校側】一人一社制のメリット

高い内定率

他社と併願しない単願制で、学校の推薦さえ得ることができれば高い確率で内定が得られるのが一人一社制の強みです。それを見越して、学校側もあらかじめ「どの生徒をどの企業に推薦するか」の割り振りを行うため、特定の一社に推薦が集中することはほとんどありません。結果として、就職を希望する生徒はほぼ全員、内定を得られる可能性が非常に高くなります。

進学校が進学実績をアピールするのと同様に、進路多様校における就職内定率は、学校としての強みでもあります。そのため、就職を希望する生徒、それを支援する高校にとって「ちゃんと就職できる」ことは非常に重要なのです。

【学校側】一人一社制のデメリット

企業情報を整理する負担が大きい

リクルートワークス研究所の調べで、「一社ごとの採用予定人数は少ないが、求人を出している企業の数自体は多い」のが、高卒採用の特徴であることが分かっています。大企業が一括して大量採用するのではなく「少しずつあちこちから」というイメージですね。

そのため、学校に寄せられる求人票の数は膨大になります。都市部と地方との差もありますが、一つの高校につき数十件~数百件、中には1,000件を超える学校もあるようです。進路指導の先生はその一つひとつを吟味して、それぞれの生徒に合った企業を紹介しなければいけません。その負担は非常に大きなものだと言えるでしょう。

今後「一人一社制」は見直されるか

「一人一社制」は時代に合わない?

このように、相応のメリットもデメリットもある一人一社制ですが、近年は「時代や社会の現状に即していない」という声が大きくなっています。最も大きな要因は、やはり高校生本人に「就職先を選ぶ余地があまりない」ことと、それに伴うミスマッチ及び早期退職です。

「高校生を守る」という基本精神は大切なことではありますが、成人年齢の引き下げにより、18歳は大人という扱いになりました。民法上も「一人で契約することができる年齢」と認められるため、本来なら自由に職業を選ぶ(=雇用契約を結ぶ)権利があるはずです。

この観点からは実質上、一人一社制が職業選択の自由を侵しているとの指摘もあります。高校生を子ども扱いして一律に選択肢を制限し、一方的に与えるのが本当に適切なのか、議論の余地がありそうです。むしろ「選び方」を育むキャリア教育の充実を図るなど、見直しが必要な時期に来ているのかもしれません。

まとめ

一定のメリットがありつつも、見直しの必要性も指摘される一人一社制。既に秋田県、大阪府、和歌山県、沖縄県などが、一定条件のもと複数企業への応募を認める措置を取っています。今後もこれに追随する都道府県が増えるという見立てもある中、企業側としてはより広範囲へのアピールが必要だと言えるでしょう。

一方で、高卒採用はハローワークの求人票が企業情報リリースの主な窓口です。定型のフォーマットの中でのアピールになるため、他社と差別化がしにくい部分もあります。求人票以外の媒体で、高校生へのアピールチャンネルを増やすことも重要です。ハリケンナビでは、企業の魅力がより伝わりやすい広報媒体や、進路指導の先生方との繋がりなども豊富にご用意しています。ぜひご活用ください。