第10回　都立の工業高校から介護施設に就職

高卒就職者のその後を追うことで、進路指導の現場に多角的な見方を提供する本連載。今回は、都立の工業高校からは珍しく、介護業界に就職した男性を取り上げる。

工業高校から介護業界へ就職

「勉強はあまり得意ではなかった」と中学時代を振り返る服部蓮之介さん(20歳)。
それでも工作などは得意で、先生の勧めもあって東京都立杉並工業高等学校に進学した。

高校1年生ではバトミントン部に所属し、部活動に精を出したが、「社会勉強をしてみたいという気持ちから、高校2年の1年間はアルバイトに力を入れました。たまたま学校近くのスーパーマーケットがレジ打ちのバイトを募集しており、それに応募しました。学校の近くで、先生に会うこともありました。」

高校3年生になると、いよいよ進路を決めなければならない。「進学はまったく考えていなかった。」という服部さんは、自分に合った就職先を探し始めた。

当時、進路担当の先生から企業の選び方についてこう指導された。
「就職する人が大半の高校だったこともあり、進路指導室にはたくさんの企業の資料がありました。企業の見方として先生に教えられたポイントは2点。一つ目は会社の規模、もう一つが出勤時間と休みでした。出勤時間が深夜だったり、土日に休みが取れない仕事だったりする会社は、安易に選ばないよう指導されました。逆に、大規模な会社は安定していると評価していました。先生は『適当に選ぶとすぐに辞めるぞ』と話していました。」

服部さんはスーパーのアルバイト経験を活かすことができるのではないかと、パン屋さんの求人に応募することに決めた。
「スーパーと同じ接客する仕事で、経験が生かせると思いました。ただ、筆記試験につまずき、採用はされませんでした。」

そんな服部さんが次に目をつけたのが介護業界だった。友達などから介護業界は人手不足が深刻で積極的に採用していると聞いたことも、服部さんの背中を押した。

ただ、先生に反対された。
「先生自身が介護施設で働いた経験があったようで『汚物の処理など大変だ』と言われました。一方、介護施設を運営する会社のパンフレットを見ると、そんなイメージばかりではありません。たまたま同級生の女性がグループホーム（認知症の高齢者が共同生活を送る小規模な施設）でバイトしていて、『100歳のおばあちゃんでもとても元気』などと、楽しい仕事ぶりも聞いていました。」

先生に反対されながらも、介護業界に進むことを決めた服部さん。数ある介護業界の求人票の中から選んだのが、現在、服部さんが勤めるグリーンライフだった。
「決め手は会社の規模でした。施設見学を経て、入社を決めました。筆記試験はなく、面接では高校時代に力を入れたことなどを聞かれました。工業高校から介護業界への就職は、男子では同じ学年で自分一人でした。」

全額会社負担で資格を取得

服部さんが入社したグリーンライフは、医療・保健・福祉・介護の分野で医療機関とのパートナーシップを基本に事業を展開する東証一部上場の「シップヘルスケアホールディングス」の介護事業会社で、全国に介護付有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、グループホーム、サービス付高齢者住宅、各種居宅サービス事業を運営している。

同社管理部人事採用担当の渡邊傑さんは話す。
「基本的には自宅の最寄りの施設での勤務になります。入社後はスタッフに余裕のある施設に優先的に配属され、先輩社員から直接指導を受けます。また、会社が全額負担する形で『介護職員初任者研修』の資格も取得してもらいます。介護未経験者でも安心して仕事を始められます。」

同社は2016年度より新卒高卒採用を始め、服部さんはその1期生だ。
今年は8名の採用を予定している。現在は採用者が入社後に全国の拠点に分かれるため、全員を東京に集めた3日間の新人研修も実施し、同期の顔合わせも行っているという。

服部さんは入社後、同社が運営する介護付有料老人ホーム「メディス足立」で研修を受け、同施設に勤務後、現在は同社の運営するグループホーム「はぴね中野坂上」で勤務している。入社3年目で責任感も増した。
「来年からはフロアのリーダーを任されます。入居者様の状況をほかのスタッフとも共有し、引っ張っていく立場です。」

残業は月に5時間程度で、年収はボーナスや夜勤手当を含め約360万円。実家には毎月家賃として3万円入れている。

「仕事のためにも介護福祉士の資格は取りたいですね。資格は資格給として給与にも反映されます。仕事のやりがいは、毎日接している入居者さんが自分の昔話をしてくれるなど、心を開いてくれたと感じるときです。」
時には入居者の方から、お菓子やジュースをプレゼントされることもあるという。