第2回　地方を飛び出し東証一部上場企業に就職

高卒就職者のその後を追うことで、進路指導の現場に多角的な見方を提供する本連載。今回は、駐車場のコンサルティング業務を行う会社で働く男性を取り上げる。

就職実績のない企業に就職

長崎県佐世保市出身の前川透さん（22）は自動車のエンジニア職に就く父親から、将来についてこう言われたという。
「長崎から出ろ。自立せよ」
5歳年上の兄は高校卒業後にトヨタ自動車に就職し、地元を離れている。前川さんも高校卒業後は就職しようと考えていた。

前川さんは長崎県の西海学園高等学校の出身。同級生の約6割は就職の道を選んだという。就職先に関して、3つの希望があったと前川さんは振り返る。
「1つ目は、人とかかわる仕事であること。2つ目は、大好きな車に関する仕事であること。そして3つ目が県外の企業であることです。就職先に関しては、進路指導担当の先生と最も話しました。」

そうして、前川さんの3つの希望を叶える就職先として進路指導担当の先生が勧めたのが、前川さんが現在勤める日本駐車場開発だった。同社は駐車場に関するコンサルティング業務を行う東証一部上場企業だ。大阪市北区に本社を構え、北は仙台から南は鹿児島にまで支社を持つ。
「母校からの就職実績はなかったのですが、進路指導担当の先生が学校に届いた求人票から見つけてくれました。」

福岡支社で採用面接を受け、入社が決まった。前川さんの母校の就職者のうち、約9割は長崎県内の企業に就職した。前川さんは「他府県の企業への就職者は片手で数える程度だった」と話す。
「父親の言葉の影響もありますが、自分は東京に憧れがあり、東京で働きたいと思っていました。ファッションが好きで、高校時代に友人と二泊三日で東京旅行に来て、渋谷や原宿のブランドショップを巡りました。また、東京に来たいと思っていました。」

就職先に日本駐車場開発を選んだ理由には、前川さんの3つの希望のほかに、別の要因もあったという。
「求人票の備考欄に『若い社員が活躍しています』などと書かれており、早い段階から責任のある仕事ができるのではないかと期待しました。また、会社が社員向けにシェアハウスを準備しており、その家賃が東京都内でも1万5000円から3万円と安く、地方からでも東京生活を順調に始められると感じました。会社がシェアハウスを準備していることには、両親もとても安心していました。」

先に就職して社会人になった兄にも就職に関してアドバイスを求めた。
「福利厚生もしっかりしているし、チャレンジしてみては？」
そう、声をかけられたという。

給料は大卒新入社員より上

前川さんは日本駐車場開発に入社後、同社が運営する収容台数292台の丸の内中央パーキングに配属になった。47名もの社員がそこで働いていたという。
「最初は現場で仕事を学びます。駐車場の管理と言っても、ただ車の出入りを管理するだけではありません。また使用したいと思ってもらえるように、ベビーカーを乗せることを手伝ったり、重い荷物の運搬を手伝ったり、ドアサービスも重要です。お客様から『丁寧にありがとうございました。』と手紙をもらったこともあります。」

仕事の頑張りが評価され、入社3年目には同社の社内表彰制度である「ベストサービス賞」を受賞した。同賞は上司の推薦などによって決まるという。前川さんは現在、入社5年目。一つの駐車場を任され、売上向上に頭をひねる日々だという。
「チラシなどの販促物の内容を考えたり、月極めで利用するお客さんを獲得したり、今は現場の管理者としてどうすればお客さんにもっと利用してもらえるのかを考え、仕事に取り組んでいます。」

前川さんは1月で23歳になる。大学に進学し、4年で卒業した同級生は、社会人一年目だ。社内にも大卒の新入社員が入ってきた。同社の給与は定期昇給のほか、仕事ぶりで評価される要素も強く、前川さんには大卒の新入社員より高い給与が支給されているという。
「人とかかわる仕事に就くというのが一番の希望でした。望み通りの仕事に就くことができ、満足しています。」

前川さんは入社後に貯金をし、会社が提供するシェアハウスを出て、今は賃貸住宅に一人暮らしをしている。休日は渋谷などに出て服屋さんを巡るなど、東京生活も満喫しているという。
「今は自分が担当する物件だけを見ていますが、会社全体を見ていけるようになりたい。」
そう、前川さんは胸をはる。就職を目指す後輩へこんなアドバイスを送った。
「自分の長所を知り、モチベーションを保てる仕事を探すことが重要です。」