第6回　高校在籍時のアルバイト先へ就職

高卒就職者のその後を追うことで、進路指導の現場に多角的な見方を提供する本連載。今回は、高校時代のアルバイト先の回転寿司店に就職した男性を取り上げる。

高卒後に入社した会社が倒産

村山弘朗さん（31歳）は神奈川県立大楠高等学校の出身だ。卒業後は就職する生徒と進学する生徒の割合は半々だったと振り返る。
「自分はまったく進学を考えていませんでした。早く社会に出たかったです。」

高校在籍時からコンビニエンスストアや郵便配達などのアルバイトを経験した。なかでも楽しかったのが、回転寿司店でのアルバイトだ。洗いものやレジ打ちだけではなく、簡単な巻ものや揚げ物の調理にも携わった。

高校3年生の5月頃、その回転寿司店を運営する会社の社長から、こう言われた。
「うちで、働かないか？」
二つ返事で快諾し、学校の先生にも伝えた。
こうして村山さんは学校を通した就職活動をすることはなく、就職活動を終えた。卒業するまではアルバイトとして引き続き働いたが、4月からは正社員になった。
「正社員になったら給料がいくらになるのかなどは聞いていませんでした。給与明細を見て、初めて知った感じです。アルバイト時代より少し上がっていて、やる気が出ました。職場も新規オープン店へ異動になりました。」

村山さんが入社した会社は社員数50名程度で、横須賀市内に3点の回転寿司店を展開していた。
「仕入れだけは社長が行うのですが、その他の業務はすべて経験しました。回転寿司のベルトコンベアの内側にある『つけ場』と呼ばれる寿司を握るエリアにも、入社1年目（正社員としての）から入れてもらいました。寿司は1年目から握っていました。仕事にも給与などの待遇にも満足していたのですが・・・。」

村山さんが正社員として入社してから6年目。会社の倒産に直面することになる。
「給料の遅配など、倒産の前兆みたいなものがまったくなかったので、驚きました。給与も最後の分もきちんと頂きました。自分はまだ20代半ばで転職もできるだろうと考えましたが、40代以降の人は次の仕事に苦労するかもしれないと感じました。」

2か月程度は、旅行に行ったり、友達と遊んだり、ゆったりと過ごした。一度は、飲食とはまったく違う仕事をしようとも考えたが、これまでの経験がもったいない。
そんなとき、倒産した会社の社長が紹介してくれたのが、現在、村山さんが働く株式会社ネオ・エモーションだ。
「仕事の内容も変わらず、待遇も大きく変わらない。これまでの経験も生かせる。」

村山さんはネオ・エモーションへの入社を決めた。25歳になっていた。

シンガポール店で経験積みたい

ネオ・エモーションは、回転寿司店14店舗と和食ダイニング店４店舗を国内に展開する飲食チェーンだ。海外事業も展開し、シンガポールにも店を構えている。
日本でも有数のマグロの水揚げ量を誇る三浦三島港のなかでも、老舗マグロ問屋として実績のある「三崎恵水産」がネオ・エモーションの母体になっている。マグロ問屋が運営しているからこそ、鮮度と価格を両立したこだわりのお店を展開できるのだ。

村山さんは現在、同社の「まぐろ問屋三浦三崎港」横浜ワールドポーターズ店の店長として働いている。社員6名、アルバイト25名の上司だ。
「予算の管理や、アルバイト採用などの人事労務が大変ですが、店長としてのやりがいもあります。特に自分の考えた商品がヒットしたときは嬉しい。最近ではお酒を入れる升にマグロを入れた商品がヒットしました。」

生活も落ち着き、結婚して、二人の子どもも授かった。
「独身ならシンガポール店への異動を希望して、経験を積みたいですが、今は家族を支えていくことが一番大切です。」

若くして店長を任されているが、将来はどう考えているのだろうか。
「会社の経営側に回ることは考えていません。子どもたちが社会人になる40代後半くらいで独立して、妻と二人で小さな小料理屋でも開くのが夢ですね。」

同社は近年、高校生を積極的に採用。2017年4月には6人、2018年4月には7人の高校生が入社した。
また、同社はUターン就職をサポート。3年で一人前の寿司職人になることを目指し、その後は沖縄の同社直営店舗や、東北のパートナー店舗への転勤という形の異動で、地元へのUターン就職をサポートする。地方の高校生には嬉しい制度だろう。

村山さんはこうメッセージを送る。
「『寿司屋は怖い』というイメージを持つ人がいますが、そんな心配はありません。寿司は握れるようになるし、魚も見極められるようになり、手に職がつきます。入社後3年は皿洗いだけの修行なんてことはありません！」